AIコーディング
DeNAが自律型AIエンジニア「Devin」を全社2,000人超に導入──作業効率6倍、Perl→Go移行を劇的に加速
この記事のポイント
- DeNAがCognition AI開発の自律型AIエンジニア「Devin Enterprise」を全社2,000人超に導入
- Perl→Goのコードマイグレーションで作業効率約6倍(半年→1ヶ月弱)を達成
- オフショア検収は1〜2日→約2時間、営業見積もりは約8倍の効率化
- 日本企業による大規模AIコーディングエージェント導入の先行事例として注目
全社2,000人超が利用可能に──導入の全体像
DeNAは2026年3月、米Cognition AIが開発する自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin Enterprise」を全社規模で導入したことを発表した。ITmedia Enterpriseによると、2,000人を超える全社員がDevinを利用できる体制が整い、すでに40以上のチームが実業務で活用を開始している。
導入の起点は2025年7月。DeNAはCognition AIと戦略的パートナーシップを締結し、約半年間にわたる段階的な検証を経て全社展開に至った。ゲーム、ヘルスケア、スポーツ、オートモーティブなど多角的な事業を展開するDeNAにとって、社内に散在するレガシーコードの刷新は長年の課題だった。
「作業効率6倍」の中身──数値で見る導入効果
最も象徴的な成果はコードマイグレーションだ。社内の資産管理APIをPerlからGoへ移行する作業において、従来は半年程度を見込んでいた工期が1ヶ月弱に短縮された。これが「作業効率約6倍」の根拠となっている。
オフショア開発の品質管理でも顕著な効果が出ている。専門チームが指摘する不具合の半分以上をDevinが事前に検知・修正しており、検収作業は1〜2日から約2時間に短縮された。また、SSoT(信頼できる唯一の情報源)の自動整備によって月間2,000時間のコミュニケーションコスト削減を目指す取り組みも進行中だ。
そもそもDevinとは何か
Devinは米Cognition AIが開発した「世界初の自律型AIソフトウェアエンジニア」を標榜するAIコーディングエージェントだ。GitHub Copilotのようなコード補完ツールとは根本的に異なり、タスクを渡すとリポジトリの理解からコード実装、テスト実行、プルリクエスト作成までを一気通貫で自律的に遂行する。
Slackと統合して自然言語で指示できる点が特徴で、DeNAでもSlack Workspaceを通じた運用が行われている。複数のタスクを並列で処理する能力を持ち、人間のエンジニアが他の業務に集中している間にもバックグラウンドで作業を進められる。
Devinの料金体系(2026年3月時点)
Core
$20〜
従量課金($2.25/ACU)
Team
$500/月
250 ACU込($2.00/ACU)
Enterprise
要問合せ
VPC・SSO対応
DeNAが導入したのはEnterprise版。VPC環境でのシングルテナント運用により、ソースコードが外部に流出しない構成を取っている。
3段階の慎重な導入プロセス
DeNAは全社展開にあたり、3段階の導入プロセスを踏んでいる。この慎重なアプローチは、同規模の導入を検討する企業にとって参考になるだろう。
第1段階(α版)ではコアユーザーによる技術検証を実施し、エンタープライズ利用に必要なガバナンス要件を洗い出した。第2段階(β版)では実案件に近い環境での試行を行い、Slack運用ルールの策定や組織単位の自動化フローを構築。そして第3段階(全社展開)で、約2,000人の全社員がそれぞれの事業特性に合わせてDevinを呼び出せる体制を実現した。
セキュリティ面では、VPC版の展開による物理的に独立した環境の構築、SAML/OIDCによるSSO連携、ACU(AIコンピューティングユニット)消費状況の監視など、エンタープライズグレードのガバナンスを確立している。
日本企業のAIコーディングエージェント導入が加速
DeNAの事例は、日本企業によるAIコーディングエージェントの大規模導入として極めて先進的だ。これまで日本企業のAI活用はChatGPTによる文書作成やGitHub Copilotによるコード補完が中心だったが、タスクを丸ごと委任できる「自律型エージェント」の全社導入は新たなフェーズに入ったことを示している。
AIコーディング市場では、GitHub Copilotがコード補完の定番として広く普及し、CursorがAI統合IDEとして急成長中だ。AnthropicのClaude Codeはターミナルベースの自律型コーディングを実現している。その中でDevinは「完全自律型のAIソフトウェアエンジニア」としてポジションを確立しており、Slackから指示を出すだけでプルリクエストまで完成するという手軽さが、エンジニア以外の職種にも門戸を開いた点が特徴的だ。
Aitly編集部の注目ポイント
DeNAの事例で興味深いのは、エンジニアだけでなく営業担当が工数見積もりに使い、非エンジニアが仕様確認に活用している点だ。AIコーディングエージェントの恩恵が「コードを書く人」だけでなく、組織全体に波及し始めている。月間2,000時間のコミュニケーションコスト削減という目標は、エージェントが「コードを書く」以上の価値を生み出す可能性を示唆している。
AIコーディングエージェント時代の幕開け
2026年はAIコーディングエージェント元年と言える。Goldman SachsがDevinを12,000人のチームに導入した事例に続き、DeNAの全社2,000人導入は、大規模組織でのAIエージェント活用が実用段階に入ったことを裏付けている。
今後の焦点は「エージェントにどこまで任せられるか」の線引きだ。DeNAのようにVPC環境でのガバナンスを確保しつつ段階的に展開する手法は、セキュリティ要件の厳しい日本企業にとってモデルケースになる。レガシーコードの刷新、テスト自動化、ドキュメント整備といった「やるべきだが人手が足りない」領域から導入し、効果を実証してから範囲を広げるアプローチは、AIコーディングエージェント導入の王道パターンになっていくだろう。